職場の腰痛対策|企業が取り組むべき予防と職場環境の見直し方

職場の腰痛対策・・・
「腰痛を訴える従業員が多い」
「職場で腰痛対策をしたいが、何から始めればよいのか分からない」
「ストレッチや椅子の変更だけで十分なのだろうか」

職場の腰痛対策では、従業員本人にセルフケアを促すだけではなく、どの部署・職種・作業で腰痛が生じているのかを把握し、仕事上の負担を確認したうえで対策を選ぶことが重要です。

厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指針」では、腰痛の発生要因として、動作要因、環境要因、個人的要因、心理・社会的要因が挙げられています。そのため、腰痛が多いという結果だけから「姿勢が悪い」「運動不足」と原因を決めることはできません。

企業では、

発生状況を把握する
→ 腰痛が多い部署・職種・作業を絞る
→ 実際の仕事上の負担を確認する
→ 職場側で負担を減らす
→ 必要な健康支援を組み合わせる
→ 実施後の変化を確認する

という順序で考えると、必要な対策を整理しやすくなります。

この記事では、職場の腰痛対策について、企業が何を確認し、どのように予防や職場環境の見直しにつなげればよいのかを解説します。

目次

1|職場の腰痛は原因を一つに決めつけない
2|まずは自社で腰痛が「どこに多いか」を把握する
3|腰痛が多い部署・職種では仕事の負担を確認する
4|仕事上の負担が確認されたら職場側の対策を優先する
5|健康支援・セルフケアは職場環境の見直しと組み合わせる
6|腰痛対策を実施した後は変化を確認する
7|まとめ|まずは腰痛が多い場所と仕事上の負担を確認する

腰痛対策を考える前提として、腰痛の原因を一つに決めつけないことが大事です。

厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指針」では、職場における腰痛の発生要因として、主に次の4つが挙げられています。

要因確認する内容の例
動作要因重量物の取り扱い、人の抱え上げ、不自然な姿勢、長時間の同一姿勢など
環境要因振動、温度、照明、床面、作業空間など
個人的要因年齢、性、体格、筋力、腰痛の既往歴、基礎疾患など
心理・社会的要因仕事への満足感、働きがい、対人関係、仕事上のストレスなど

実際の職場では、複数の要因が重なっている場合があります。

例えば、倉庫作業者に腰痛が多いことが分かったとしても、それだけで「重量物が原因」とは判断できません。

重量物を扱っているのか、床から何度も持ち上げているのか、中腰やひねった姿勢が続くのか、作業空間が狭いのか、休止や作業交替が十分なのかなど、実際の仕事を確認する必要があります。

一方、腰痛があるからといって、すべてを仕事が原因だと判断することもできません。

企業が確認できる「腰痛が多い」「特定部署に集中している」といった事実と、そこから考えられる原因仮説は分けて扱いましょう。

腰痛対策を始めるときは、最初から施策を選ぶのではなく、自社で腰痛がどこに、どのように生じているのかを確認します。確認方法は従業員アンケートだけではありません。

自社ですでに保有している情報や、職場で新たに確認できる情報として、例えば次のようなものがあります。

  • 従業員アンケート
  • 既存の健康管理情報で確認できる範囲
  • 欠勤・休業等の記録
  • 労働災害の発生状況
  • 職場巡視
  • 管理者・従業員への聞き取り
  • 実際の作業の観察

ただし、それぞれの情報から分かることは異なります。
例えば、既存の健康管理情報だけでは「どの作業で腰に負担を感じているのか」まで把握できない場合があります。

その場合はアンケートや聞き取り、職場巡視、実際の作業の観察などを組み合わせます。
また、健康情報などを扱う場合は、個人が特定されない形で集計するなど、情報の取り扱いにも配慮します。

腰痛の有無だけでなく「仕事への支障」を確認する

アンケートなどを行う場合も「腰痛がありますか?」だけで終わらせないことが重要です。
例えば、

  • 腰痛を感じているか
  • どの程度の頻度で感じるか
  • 仕事中に困る場面があるか
  • どの作業で腰への負担を感じるか
  • 腰痛によって仕事へどの程度支障があるか

などを確認します。こうすることで「腰痛がある人が何人いるか」だけじゃなく、どの仕事上の問題を詳しく確認すべきかが見えやすくなります。

全社平均だけでなく部署・職種などで分ける

全社で腰痛を訴える従業員が多いと分かっても、その数字だけでは対策を決めることができません。
可能な範囲で、

  • 部署
  • 職種
  • 仕事内容
  • 勤務形態
  • 作業場所

などと組み合わせて確認します。例えば、事務職では少なく、倉庫作業者では多いのであれば、倉庫で行われている作業を詳しく確認するきっかけになります。

一方、複数の職種・部署で広くみられるのであれば、職種固有の作業だけでなく、全社に共通する働き方や健康課題も確認する必要があるかもしれません。

ここでも、部署間の差は原因そのものではありません。どこを詳しく確認するかを決めるための情報として使います。

従業員の健康課題全体について、健康診断、ストレスチェック、勤怠、アンケートなどを組み合わせて把握する方法は、記事:「従業員の健康課題を企業はどう把握する?健康状態を可視化する方法」で詳しく解説しています。

腰痛が多い部署・職種・作業が見えてきたら、次は実際の仕事を確認します。
厚生労働省の指針では、特に腰痛予防対策を示す作業として、

  • 重量物取扱い作業
  • 立ち作業
  • 座り作業
  • 福祉・医療分野等における介護・看護作業
  • 車両運転等の作業

が挙げられています。自社では、次のような視点で確認できます。

確認すること実際に見るポイント
重量物重量、取り扱う回数、持ち上げる高さ、運搬距離
作業姿勢前かがみ、中腰、ひねりなどの姿勢が続いていないか
同一姿勢座位・立位・運転などが長時間続いていないか
作業時間連続作業時間、休止時間、作業交替の状況
設備・道具台車、リフター、福祉用具などを利用できるか
作業空間十分なスペースがあり、無理な姿勢を強いられていないか
作業環境床面、照明、温度、振動などに問題がないか

重要なのは「重量物を扱う」「座り仕事である」といった大まかな分類で終わらせないことです。
例えば重量物なら、

何を
→ どの高さから
→ 何回程度
→ どのような姿勢で
→ どこまで運んでいるのか

まで確認すると、改善すべき作業を具体化しやすくなります。

デスクワークでも「姿勢が悪い」で終わらせない

デスクワークで腰痛が多い場合も「姿勢が悪いから腰痛になる」と決めつけないことが重要です。

例えば、

  • 長時間座り続けていないか
  • 作業途中で姿勢を変えられるか
  • 机や椅子を作業者に合わせて調整できるか
  • パソコンや資料の配置によって無理な姿勢になっていないか
  • 十分な作業空間があるか
  • 作業時間や休止の取り方に問題がないか

など、実際の作業条件を確認します。
椅子など一つの設備だけを変更して解決しようとするのではなく、設備、配置、作業時間、姿勢を変えられる環境などを含めて考えることが大切です。

腰痛が多い職場で仕事上の負担が確認された場合、従業員本人へセルフケアを求める前に、その負担を仕事側でなくす、または減らせないかを検討します。
考える順序は次のように整理することができます。

① 負担の大きい作業そのものをなくす・減らす
↓
② 機械・補助具などで人への負担を減らす
↓
③ 作業方法・設備・時間・環境を見直す
↓
④ 必要な教育や健康支援を組み合わせる

すべての職場で完全にこの順序どおり対応できるわけではありませんが、重要なのは「従業員が気をつける」ことだけを最初の対策にしないことです。

重量物を扱う場合

重量物の取り扱いが多い職場では、まず人力作業そのものを減らせないか検討します。

厚生労働省の指針では、腰部に負担がかかる重量物の取り扱いや不自然な姿勢を伴う作業について、作業の全部または一部の自動化が望ましいとされています。自動化が難しい場合は、

  • 台車
  • リフター
  • 適切な補助機器・道具

などによって省力化し、腰部への負担を軽減します。つまり、
「腰を痛めない持ち方を教育する」だけではなく、「そもそも人が持つ作業を減らせないか」を先に検討する
ということです。

人力での取り扱いが残る場合には、そのうえで重量、作業姿勢、取り扱う回数、作業人数などを見直します。

同じ姿勢や不自然な姿勢が続く場合

座り続ける、立ち続ける、中腰を続けるなど、同じ姿勢や腰に負担のかかる姿勢が長く続く場合は、

  • 作業方法を変更する
  • 作業台の高さや配置を調整する
  • 作業場所を見直す
  • 作業を交替する
  • 適切な休止を設ける
  • 姿勢を変えられるようにする

などを検討します。「正しい姿勢をずっと維持する」ことだけを目標にするのではなく、負担のかかる姿勢や同じ身体の使い方が長時間続かないようにできるかを確認します。

介護・看護など人を抱える作業の場合

介護・看護の現場では、対象者を抱え上げる作業などによって腰部への負担が生じる場合があります。
この場合も、従業員本人の筋力や身体の使い方だけに対策を求めるのではなく、

  • 福祉用具を利用できないか
  • 抱え上げる作業そのものを減らせないか
  • 作業方法を変更できないか
  • 作業空間を確保できないか

などを確認します。

車両運転が多い場合

長時間の車両運転がある職種では、

  • 連続運転時間
  • 休止の取り方
  • 運転姿勢
  • 座席の調整
  • 車両の振動

なども確認します。このように腰痛対策は職種・仕事内容によって異なります。
全社一律で同じ対策を行うのではなく、確認された仕事上の負担に合わせて対策を選ぶことが重要です。

職場側で減らせる負担を確認・改善したうえで、必要に応じて従業員への健康支援を組み合わせます。
例えば、

  • 腰痛予防に関する労働衛生教育
  • 身体活動や運動の機会
  • 職場で実施できる体操
  • セルフケアに関する情報提供
  • 身体の状態について相談できる機会

などがあります。

厚生労働省も、重量物の取り扱い、同一姿勢での長時間作業、不自然な姿勢を伴う作業、介護・看護作業、車両運転作業などに従事する労働者に対し、必要に応じて腰痛予防のための労働衛生教育を行うことを示しています。

教育内容には、腰痛の発生状況や発生要因、リスクの見積もり、発生要因を低減する対策、腰痛予防体操などが含まれます。一方で、健康支援だけでは仕事上の負担そのものはなくなりません。例えば、

重い物を繰り返し人力で運ぶ
→ ストレッチだけ実施する

中腰を強いられる設備をそのままにする
→ 正しい姿勢だけ指導する

という対策では、確認された仕事上の負担が残ります。したがって、

作業・設備・環境に課題がある
→ まず職場側の負担を減らす

そのうえで身体的な健康支援も必要
→ 教育、運動、セルフケア、身体のコンディション支援などを検討する

と役割を分けて考えます。

職場で行う運動や複数の要素を組み合わせた介入については、腰痛に対する効果を検討した研究がありますが、対象者、介入内容、評価項目によって結果は異なります。

そのため、運動や特定の健康施策を導入すれば必ず腰痛を予防・改善できるとは言えません。
自社で確認された課題と施策の目的が合っているかを確認して選ぶことが大事です。

すでに腰痛がある従業員への対応は予防策と分ける

企業全体の腰痛予防と、すでに症状がある従業員への個別対応は分けて考える必要があります。
症状によっては医療機関での評価や治療が必要になる場合があります。

また、腰痛による休職者が職場へ復帰する場合について、厚生労働省は産業医などの意見を聴き、必要な措置を取ることを示しています。

職場の予防策だけですべての症状へ対応しようとせず、必要に応じて産業保健スタッフや医療機関につなげます。

腰痛対策は、設備を導入したり健康施策を実施したりした時点で終わりではありません。
対策前に確認した内容を、実施後にもできるだけ同じ方法で確認します。
例えば、

  • 腰痛を訴える従業員の状況
  • 腰痛による仕事上の支障
  • 腰への負担を感じる作業
  • 部署・職種別の状況
  • 欠勤・休業等の状況
  • 導入した設備・仕組みの利用状況

などです。

「導入したか」ではなく「負担が変わったか」を見る

例えば台車を導入した場合「台車を導入した」だけでは腰への負担が変化したか判断できません。

  • 実際に利用されているか
  • 利用しにくい理由はないか
  • 重量物を人力で運ぶ回数が減ったか
  • 従業員が感じる作業負担に変化があるか

などを確認します。健康施策でも同様です。参加人数だけではなく、

  • 必要としている従業員が利用できたか
  • 腰痛による仕事上の困りごとに変化があったか
  • 利用しにくい理由はなかったか

まで確認すると、次の改善につなげやすくなります。

前後の変化だけで施策の効果と断定しない

対策後に腰痛を訴える従業員が減ったとしても「この施策によって腰痛が改善した」とすぐに因果関係を断定することはできません。

同じ期間に、

  • 業務量
  • 繁忙状況
  • 人員配置
  • 仕事内容
  • 対象者

などが変わっている可能性があるためです。そのため、

対策を実施する
→ 同じ方法で状況を確認する
→ 変化を見る
→ 同時期に変化した条件も確認する
→ 必要なら対策を修正する

という流れで継続的に見直します。

職場の腰痛対策では、最初からストレッチや健康サービスを導入するのではなく、自社で腰痛がどこに多く、どの仕事で負担が生じているのかを確認することが出発点です。

まず、アンケート、既存の健康管理情報、欠勤・休業等の記録、職場巡視、聞き取りなど、利用できる情報から腰痛の状況を確認します。

特定の部署・職種・作業で腰痛が多ければ、重量物、作業姿勢、同一姿勢、作業時間、設備、作業空間などを詳しく確認します。

仕事上の負担が見つかった場合は、作業そのものをなくす・減らすことや、自動化・省力化、設備・作業方法・作業時間の見直しを先に検討します。

そのうえで身体的な健康支援も必要であれば、健康教育、運動、セルフケア、身体のコンディション支援などを組み合わせます。

最初の一歩として、「腰痛があるか」だけではなく、「どの仕事で腰への負担や支障を感じているか」を確認し、部署・職種・仕事内容と組み合わせて整理することから始めてみましょう。

Relabについて

職場の状況を確認した結果、腰痛などの身体的不調が従業員の仕事上の困りごととしてみられ、作業環境や業務上の負担への対応に加えて身体的な健康支援も必要と判断される場合には、職場で身体のコンディションを支援することも選択肢の一つです。

Relabでは企業へ訪問し、一人ひとりの身体の状態や仕事内容を確認したうえでコンディショニングケアを行っています。

施術前には身体の状態を確認し、必要に応じて職場や自宅で実践できるセルフケアや身体の使い方も案内しています。

ただし、重量物の取り扱い、設備、作業環境、業務量などが主な課題である場合、それらをコンディショニングで代替することはできません。

職場側で改善すべき課題と、従業員への身体的な健康支援を切り分けたうえで、身体のコンディション支援が必要な場合の選択肢としてご検討ください。

Relabの企業向けコンディショニングサービス

参考資料・参考文献

  1. 厚生労働省「職場における腰痛予防対策の推進について(職場における腰痛予防対策指針)」2013年
    厚生労働省公式資料
  2. 厚生労働省「腰痛予防対策」
    厚生労働省公式ページ
  3. Russo F, Papalia GF, Vadalà G, et al. The Effects of Workplace Interventions on Low Back Pain in Workers: A Systematic Review and Meta-Analysis. International Journal of Environmental Research and Public Health. 2021;18(23):12614.
    PubMed

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